サントリーの緑茶「伊右衛門」のCMで、イモトアヤコに向かって宮沢りえが、「転がる石にコケは生えへん、いうてね」と言っている。
「転がる石に苔は生えない」の「転がる石」について、僕は数十年来、「転がる石」を否定する、つまり「転がる石」はよくないという意味だと思い込んでいたから、そのCMで「転がる石」を肯定しているのを聞いて、焦った。
またしても僕は、長年、思い違いをしていたのか、と。
そこですぐに辞書を引いてみた。そしてホッとした。両方の意味があり、僕の知識が間違いではないと知って、ホッとした。
広辞苑のように、「転がる石」をよくないと否定する解釈を先に挙げる辞書がある:
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【広辞苑 第七版】転石苔を生ぜず
(英語のことわざから)
・何事も腰を落ち着けてあたらないと、身に付くものがなく大成できない。
・常に活動している人は、時代に遅れることがない。
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また、The New Oxford American Dictionary のように、"a rolling stone"=「転がる石」を否定する解釈のみを挙げる辞書がある:
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【The New Oxford American Dictionary, THIRD EDITION】a rolling stone gathers no moss.
[proverb] a person who does not settle in one place will not accumulate wealth or status, or responsibilities or commitments.
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その一方で、スーパー大辞林のように、「転がる石」を肯定する解釈を先に挙げる辞書もある:
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【スーパー大辞林(2013年版)】転石苔を生ぜず
・活発な活動を続けている者は,いつまでも古くならないことのたとえ。
・ 一か所に落ちつかない者は大成しないことのたとえ。
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ことばは変化し続けるものだから、どの解釈も正しいといえる。
ただ、文脈なしで、「転がる石に苔は生えない」だけ抜き出すと、解釈は分かれるだろう。恐らく、僕の世代は否定の解釈と捉える人が多いのではないだろうか。
さて・・・
ことわざの解釈の話題からは離れるが、文脈次第でまったく反対の意味になることばの例を挙げて、このノオトをしめたいと思う。
同じような例を挙げればきりがないが、一例として「こうてん」がある。
音を聞いただけでは、「好天」であるのか、「荒天」であるのかの判断はできない。文脈次第である。